最近、短期記憶がどうにも心もとない。直前まで頭で覚えていたはずなのに、気が付いたらふっと忘れてしまっている事が増えた。
私の母は、脳出血で倒れて以来、認知症を発症した。その症状は緩やかだが着実に進みつつある。
発症してから1年程は、何とか大きな問題なく会話もできて過ごせていたが、ここ最近家族の認識が怪しくなってきた。
父の事を自分の旧姓で呼んだり、娘である私を自分の妹の名で呼んだり。
母の所へお見舞いに行っても、私が来ていたことすら忘れていたり。
きっとこうして、直近の新しい記憶から徐々に忘れていき、昔の記憶が最後まで残るようになっていくのだろう。
周囲にとっては大変で辛いが、母にとってはある意味それも幸せなのかも知れない。
私も30歳で初めて産後うつを発症した時には、10分前に聞いたことすら思い出せなかった。
このままではどんどん廃人になっていくのではないかと、怖くて堪らなかった。
不思議な事は、うつの場合治ってくると、当時の酷かった状況で話したことや起きたことをちゃんと思い出せるようになることである。
記憶の不思議。知られざる脳内という不可思議な世界で何が起こっているのか。
見られるものなら、自分の脳内を覗いてみたい。
私が脳科学に強い興味を抱いたのも、今の病気を発症したことがきっかけだった。
元気があって頭が比較的クリアな時は、脳に関する本を読んだりして、様々な可能性に思いを巡らせている。
脳にはきっと無限の可能性がある。人間が考えている以上の再生能力や、未知の能力が秘められているのかも知れない。
しかしそれと同時に、恐らく無限の恐怖や苦痛も存在する。脳内に刻まれた消せない痛みや記憶。それらが今の私の体にどのような影響を及ぼしているのか。
それを取り除くことが、その恐怖や不安を乗り越えることが、果たして今の私に出来るのか。それだけの力がまだ残されているのか。
何度も諦めそうになる。もう、全てから逃れたいと願う。
でも、あと少し、もう少しだけ、明日の可能性を信じて、生きていたい。